大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)344号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人半沢健次郎の上告理由について。

第一審判決を引用して原審が確定した事実によれば、上告人は、その経営する家具製造の工員として伊藤一男を住込で雇入れ、被上告人から賃借中の本件家屋内で家具製造に従事させ、その寝所の用にのみ本件家屋の西北部に約三尺をへだてて建築された上告人所有の製品倉庫の一部をあてていた、というのであるから、原審が「伊藤が上告人の用務のため本件家屋を使用することは、上告人の賃借権の効果として当然に許容されるところであるとともに、その反面伊藤は上告人の賃借人としての義務の履行を補助する関係にあるものといわなければならない」旨判示したことは正当である。さらに、原審の判示するところによれば、上告人の履行補助者である右伊藤は、過失により火を失し、よつて本件家屋を取引の通念上居宅として使用するにたえない程度に焼失させ、これがため上告人の賃借する本件家屋の返還義務が履行不能となつたというのであるから、右履行不能は、賃借人たる上告人の責に帰すべき事由によつて生じたものといわなければならない。所論は、右伊藤が賃借義務履行の補助者であるとするためには、賃借人でかつ雇主たる上告人から本件家屋の管理ないし管理の補助を命ぜられていることが必要であると主張し、これを前提として違憲をいうが、債務者が債務の履行のために使用する者であれば、債務者から特に債務の履行を命ぜられた者でなく又は経済的もしくは社会的に債務者に従属する者でなくても、これを履行補助者というを妨げないと解すべきであるから、原判示には所論の違法なく、違憲の主張は前提を欠き採用することができない。

所論は、また、原審が公序良俗違反ないし権利濫用がないとしたのは理由不備であるというが、原審はその確定した事実関係の下において所論の公序良俗違反または権利濫用にわたる事実は証拠上認められない旨判示しているのであるから、所論は事実認定の非難に帰し採用すべき限りでない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例